現在ルームメイト”アントニオ”の友人2人がイタリアから旅行で来ている。この2人はアントニオの部屋に泊まりながら、トロンハイムを観光している。さらに今日はまた別のイタリア人旅行者2人が来るらしい。
日本語クラブが終わって戻ってくると、イタリア人旅行者4人が勢ぞろいしていた。皆防寒具やリュックなどを用意している。
「今からどこかへ?」
「これから湖へバーベキューをしにいくから、一緒に行こう」
「今何時だと思ってるんだ。もう20時半。すぐに日も暮れるし無理だって」
「だーいじょうぶだって」
ありえない。
湖とは寮から裏の山を登って徒歩約1時間。全く明日の事を考えていない。もう一人のルームメイト”リカルド”も準備をしている。迷っていたが、結局アントニオに強く押し切られ、行くことにした。明日は一応授業もないし、研究指導教官のホーゲンセン先生は出張中だし、行くにはまたとない条件である。出発間際にはスペイン人のエステバンとフランス人のデビッドも加わった。デビットは明日の9時から授業があり、しかもその宿題をやっていないらしい。それでも彼は行く。やるじゃねえかデビッド。
裏の小路を抜けて山へ入ると、大きくて立派な角を持っている鹿が登場した。熊じゃないだけいい。ただのピクニックとは違う、野生動物達の住みかへ入り込むハイキングになりそうだ。帰りは間違いなく真っ暗になるので、分かれ道の所では振り返って景色と道順を記憶しておく。分かれ道だらけの山道を歩くこと50分、目的地の湖に到着した。すでに日は沈もうとしている。イタリア旅行軍団はここで泊まるらしくテントを張り始める。
湖の入り口から薪をかき集めて、火を焚く。なかなか良い雰囲気だ。バーベキューのネタはサーモンの切り身とソーセージ、それからアントニオが焼いたお手製のパンだ。野菜は一切なし。サーモンが焼けてくるとなかなか香ばしい匂いが漂う。そろそろ良い時期かと思い皿に盛る。空腹で逸る気持ちを抑えながら食べてみる。なかなかうまいじゃないか。この大自然と湖をバックにバーベキューなんて、なんと贅沢な事をしているのだろう。
ここまでは良かった。
2口目を口にすると皆一斉に、
「生だ」
この生というのが微妙な生だから困る。完全な刺身なら塩とかオリーブオイルでいけるし、焼けているのはもちろん良い。しかし微妙に暖かくて微妙に火が通りかけているのは生魚に慣れている俺でもつらい。結局焼きなおす。ソーセージも暗くてよく見えなかったせいか2,3本、生っぽいのを食べた記憶がある。
夜も遅くなり、午前1時を回った。簡単に焚き火周囲を片付けて寮へ向けて出発する。イタリア旅行団4人とアントニオはここで泊まるので、帰るのはリカルド、エステバン、デビッドそして俺の4人。懐中電灯は宿泊組の為に残しておく。真っ暗な森の中、携帯電話のランプを頼りに歩く。
ザッザッザッザッ
静けさを保つ森の中に我々の足音だけが響き渡る。スペイン人のエステバンはあまり暗いのが得意でないらしい。リカルドがからかう。
「エステバン、ブレアビッチプロジェクトって知ってるか?」
「・・・」
「見てみろよ。周りのうっそうとした雰囲気とかそのものだぜ」
「見た事あるけど内容は忘れちまったよ」
「エステバン、ブレアビッチプロジェクトって知っているか?」
「おぼえてねぇよ!」
この後、いくらリカルドがそのネタを出しても、エステバンは「I don't remember!」を繰り返すばかりだった。
道を一度間違えながらも、何とか無事に寮まで戻ることができた。時に午前2時半。明日はちょっと寝坊しよう。
湖に着いた時は既に日が暮れかけていた。↓
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