ノルウェーに行くには直行便がないために、どこかを経由しなければならない。北欧への入り口はデンマークのコペンハーゲンが一般的である。しかし今回はロンドンヒースロー空港経由を選んだ。理由はいたって単純で、相応の安いチケットがあったから。自分が持っているチケットは1年間有効のオープン往復チケットである。このチケットだと日本で何かあった際、復路搭乗日を変更してすぐ帰る事ができる。今のところ、2005年の7月アタマまでは帰らない予定だが、90歳を越える祖母が二人いて、両親も60歳を越えている。俺が帰国するまで健在でいるという事を言ってくれているが、さすがに年齢を考えると心配である。この2005年7月8日付けになっている復路航空券の日程変更しない事を祈る。
日本を発ってから、8時間が経とうとしている。相当寝たようだ。出発前夜は準備で徹夜をしてしまった。本当は長い旅程に備えてぐっすりといきたかった。しかし研究の引継ぎや、研究の後始末が終わらなくてとうとう徹夜になってしまった。ただこの徹夜がかえって良かったのかもしれない。成田−ロンドンは寝まくって残り4時間で到着予定である。一番長く、つらい所は案外早くぬけそうである。今回搭乗しているのはBritishAirways8便。これは成田を出ると新潟上空を通過し、日本海に出る。ロシア領空内をひたすら飛んでバルト海、そして北海を越えてロンドンに到着する。道中暇をもてあますかと言うとそうでもない。#体はボーイング社の誇るB747-400だが、その中でも最新鋭の物らしく、全座席後ろに液晶画面がついていてチャンネルを回せば好きな映画などを見られる。チャンネルの選択肢の一つに現在の航行位置があって地図上を飛行機が動いているのがわかる。今はバルト海付近にいるようだ。2時間ばかり窓の外を眺めてボーっとしていると、到着前の機内食が運ばれてきた。あんまり食欲は湧かないが、せっかく出てきたので食べる。内容はチーズとベーコンを挟んだコッペパン、フルーツポンチ、ミネラルウォーター。食べて見るとなかなかうまいもんで、結局全て平らげてしまった。出発直後の食事もそうだったがBritishAirwaysの機内食はいける。以前乗ったノースウェストに比べれば雲泥の差だ。
ドーバー海峡を越えると着陸態勢に入る。着陸予定時刻は17時10分である。この時間帯はヒースロー空港が混み合う時間帯で着陸が若干遅れる可能性があるとの放送が入った。しかしその放送を意にも介さないかのように、飛行#はテムズ川を視界に納めながら順調に高度を下げ、ヒースロー空港へ滑り込んだ。ヒースロー空港はトランジットのみなので、荷物も自動的に乗り換え便に運ばれる。よって機内持ち込みの荷物だけを持ってトランジットを行う。乗り換えの際、ボディチェックがある。面倒なのでリュックの金属製品をほとんど出さなかったのだが、当然の事ながらリュック内に詰め込んだままのノートパソコンが原因でお咎めをくらってしまった。
「何が入っている?」
「ノートパソコンです」
「これは何だ?」
「ポータブルハードディスクです」
「これは?」
「USBメモリです」
「お前の仕事は何だ?プログラマーか?」
「学生です」
こんな会話が一通り終わった後、ごそごそと近くの係員同士で何かを相談している。トランジットが2時間しかないので面倒はごめん蒙りたかったが、結局どこぞの部屋に連れて行かれる事なく通過できた。
バスに乗って、到着ロビーよりヨーロッパ各国への飛行#が出発するターミナルへと移動する。オスロ行きの出発まで1時間半ばかり時間があるので、喫茶店でコーヒーを飲む。ここで時計を8時間ずらす。東京とロンドンの時差を考えると、東京は午前2時くらいのはずだ。一向に眠くないのは徹夜によって時差ぼけを成田ロンドン間で解消してしまったのかもしれない。
18時50分、オスロ行きBritishAirways770便に搭乗する。驚く程小さい飛行#だ。通路を挟んで2人がけと3人がけのシートがあるだけで、新幹線の車内を狭くした感じである。仮にもヨーロッパの首都間を結ぶ飛行機なんだけどなあ。だが無理も無い。ノルウェーの首都オスロは50万人しかいないのだから。ノルウェーの人口自体500万人しかいない。日本の人口が1億2千万人に対して東京の人口が1千200万人だから割合からいったらこんなものかもしれない。19時20分、ひっきりなしに着陸してくる飛行機の合間を見つけて離陸。10分程の遅れである。となりのおじさんと前に座っている子供たちは家族のようだ。会話に聞き耳を立ててみるが全くわからない。どうやら初めて耳にするノルウェー語のようだ。ノルウェーは英語教育が進んでいて、大体どこでも英語が通じるというが、少々心配になる。俺は全くノルウェー語を勉強していないのだ。まあどうにでもなるさ。自分に言い聞かせる。
オスロ・ガーデモエン国際空港には10分遅れで到着した。新しい空港らしく、北欧ならではの豊富な木材とガラスをうまく使ったつくりになっている。入国手続きは意外なほど早く終わってしまった。よたよたと重い荷物を押しながら、列車乗り場に向かう。今日はオスロで一泊する予定だ。オスロとロンドンは1時間時差があるからここで時計の針を動かす。現在が22時から23時になった。オスロ中心街と空港とは"Fly Toget"という高速鉄道が結んでいる。自動券売#で150クローネ(\2625)を払いホームに下りる。初めて吸うノルウェーの空気だ。意外な程気温は高い。いま自分はTシャツにチノパンだが全く問題ない。緯度が高いだけ、ある程度の涼しさは覚悟していたが、かえって拍子抜けしてしまう。23時16分発"Fly Toget"にはスーツケースを抱えた旅行人が大多数を占めていた。その他自転車をそのまま載せてくる客もいる。ヨーロッパでは自転車を分解せずに列車に乗せられる場合が多い。日本では分解して乗せないといけないから、羨ましい限りである。これを日本では「輪行」というがいちいち分解したり組み立てたり非常に面倒な作業である。ヨーロッパ流のそのまま輪行は話に聞いていたが、これを実際に見ていま、初めてヨーロッパへ来たのだと実感が湧いてきた。
オスロ中央駅には25分程で到着した。実は今日泊まるべきホテルを予約していない。(予約ぐらいしておけとのつっこみはさておき)とにかく今から探す。とにかく荷物が重いので、駅から近い所がいい。地球の歩き方を見て近くて安い所に電話をかけてみる。1件目「満室」との事。考えてみれば今日は金曜日だった。ホテルがなかったらどうしよう。「たられば」がアタマをよぎりながらも2件目のホテルに電話をかけてみる。「OK」との返事がきた。一応日本人である事、歩いて行くことを伝えると、道順を教えてくれる。しかし俺のつたない英語リスニング能力では、ほとんどその道順を聞き取ることはできなかった。幸いにも地球の歩き方に詳細な地図が載っているのでそれをあてにする事にした。この地図が間違っていたらゲームオーバーだが、その時はその時でまた電話すればいい。地図上では5分で到着する。方向にめぼしをつけて歩き出すが、厄介な敵が現れた。石畳である。スーツケースのローラーが石畳の節目に入り込んでうまく転がってくれない。しょうがないので持ったり転がしたりを繰り返すが100メートルでばてる。ちなみに俺のスーツケースは本の入れすぎで29.7Kg。進んでは休みの繰り返しで、なんとか駅前の石畳地獄をパスして、繁華街らしき道に入る。ここは普通のアスフ#ルト舗装で転がしやすい。ここを曲るであろう所で地図を確認していると、おばさんが親切に声をかけてきてくれた。
「どこのホテルを探しているの?シティホテルならそこを左にまがってまっすぐいった角にあるわよ。」
有難い。丁寧にお礼を言って道を急ぐ。考えてみればおばさんが声をかけてくれるのも道理だ。金曜日の23時くらいに繁華街で地球の歩き方を片手に重い荷物を持って、キョロキョロしているのが、華奢な体格の日本人とあらば良いカモである。周りを見れば腕にタトゥーの入ったマイクベルナルドや武藤敬司みたいのがたむろしている。いくら治安の良いノルウェーといえど勿論ごろつきはいる。目を合わさないようにして道を急ぐと、交差点の角にホテルを見つけた。フロントで500クローネ(\8750)を支払う。狭い部屋だが、ホッとしたのか疲れがたまっているのか、急激に睡魔が襲ってきた。もうシャワーなどは明日浴びればよい。とにかく体が睡眠を欲しているので、そのままベッドへ体を横たえた。
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