バルセロナのユースホステルで、和也(研究室の後輩で現在スウェーデンに留学中)と翌日以降の計画を練っていた。ロビーでガイドブックの地図を広げていると一人の男が話しかけてきた。
「Hey Guys!」
見た目は俺と同等か若干若く見える。24、5歳だろうか。
「今日はクリスマスイブだ。一緒にピザを食べよう。」
見れば、5歳くらいの女の子と一緒に30cm程のピザにナイフを入れている。彼らのテーブルにはたくさんの菓子とオレンジジュース、ピザが置いてあった。娘であろう可愛いらしい女の子は俺達の所へわざわざポテトチップを持ってきてくれた。
クリスマスにこのような安宿にいる以上は、何か事情があるのだろう。テーブル上に広がったお菓子とオレンジジュースは、娘に対する精一杯のクリスマスイブだったのかもしれない。
彼はアルゼンチン出身で、アメリカのボストンに長らく住んでいた。
「これからどうするんですか?」
「とりあえずはここに3日間は泊まって、仕事を探すさ。」
「あたしはずうーっとここに住むの。」
無邪気な女の子の笑顔は場を和ませる。
菓子を幾つかもらったので、昼間市場で買った葡萄を俺達から渡した。味は酸っぱくてあまり美味しいものとは言えない。しかし今出せるのはこれくらいしかない。
「ありがとう、うまいよ」
「どうもありがとう」
葡萄を食べる女の子を見て、なんだかちょっと感傷的になってしまった。
彼はアルゼンチン出身だからスペイン語を話せるが、失業率が10%を越えるスペインで仕事を見つけるのは大変だろうと思う。
結局名前もアドレスも聞かなかった。彼らは今頃どうしているのか全く分からない。彼はスペインのどこかで頑張っているに違いない。あの小さな娘がいる限り、どんな困難も乗り越えるだろう。
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